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#13

自然という
神さまからの贈り物 (3/4)

  • 伝統工芸
  • 奄美群島国立公園
  • 泥染め

撮影:木本日菜乃
文:櫻井 卓

泥染めは自然の恵みの色

前出の島﨑さんが結ノ島キャンプとともに、奄美の文化を発信すべく力をいれているのが、島で古くから続く泥染めだ。
泥染めの工程は通常の染め物に比べても、長い。いきなり泥で染めるわけではないのだ。
まず車輪梅、地元ではテーチ木と呼ばれる木材をチップ状にして煮出すところから。約600kgを2日間通しで合計16時間以上、大釜で煮出す。その後、水を足して再び煮てから2、3週間かけてゆっくりと発酵させる。

「テーチ木は山からいただいてます」と、肥後染色の代表を務める山元 隆広さんが言う。
“伐採する”や“採ってくる”という言葉ではなく、自然と「いただく」という言葉が出てくることに背筋が伸びる。言葉だけではない。焚くときの燃料は前回煮出したチップを使い、灰になってからも畑に蒔いて土壌改良の一助にする。すべて使い切ることに自然へのリスペクトを感じる。

「このテーチ木は奄美に自生しているものですが、伐り尽くしてしまわないよう、1mほど残して切っておきます。そうすることで、10年後にふたたび材料として使うことができます。何十年も前から循環型だったってことですね」

煮出したテーチ木の染料に、糸や布を何度も揉み込むことで美しい小豆色に染めていく。季節によって時間などは異なるから、熟練の技が必要になってくる。職人さんは自分の手がどのくらい染まったかで、染色具合を見極める。当然、作業は素手になる。

それだけの工程を経てようやく泥の出番となる。肥後染色の工房からほど近い場所に泥田がある。

水は、冷たい。色は鈍色という言葉がピッタリで、きめ細やかな美しさがある。山裾にあるこの泥田には山からの栄養分がたっぷりと流れ込み、そこで暮らす微生物たちによって粒子が細かくなる。泥を手に取ると、驚くほど滑らかだ。匂いは鉄そのもの。
泥田の鉄分がテーチ木に含まれるタンニンと結合することによって、黒褐色になる。さらにテーチ木染めと泥染めを3〜4回繰り返して、ようやく大島紬の黒が生まれるのだ。
科学などが発達していない時代によく気付いたな、という驚きがある。一説によると、薩摩藩の支配がはじまり、絹織物を徴収される際に田んぼに隠したのが始まりとされている。

泥田からイモリがひょこっと出てくる。この泥田にはたくさんの生き物が住んでいるという当たり前のことに気付く。工房で使われた水も、そのまま川に流すという。自然由来の材料を使い、自然と共存してきた伝統技法ならではとも言える見て取れた。

もともとは大島紬の絹糸を黒く染め上げるためだけに生まれたこの泥染めだが、時代の流れとともに変化が訪れている。

「大島紬だけだったらうちはもう潰れてます。洋服を染め始めて10年ほどですね。やり方はまったく変わってないですが、染めるものが変化してきました。泥染めは良い物だということには自信をもっていますが、続けて行くためには変化も受け入れなければいけない。ただ、核となるものは絶対に守って行きたいですね」

前出の島﨑さんは、この泥染めを自身のアパレルに落とし込んだ。島﨑さんと肥後染色が生み出した藍染とテーチ木染め、そして泥染めのハイブリッドは、驚くほど自然界の模様になっている。
水、土、木、自然にあるものをそのままいただく。文字通り、奄美の自然の色。
泥染めの核、それはすなわち奄美の自然であり、それを守る島の人たちの心だ。

肥後染色は家族経営。20代の甥っ子たちも作業場に出ている。
泥染めはどうですか? と聞くと「成長を実感できるから楽しいです」と即答する。3、4年経ってようやく色が出始めたという。

「色だけでは飽きが来てしまうかもしれません。今後は染めだけでなく、テーチ木を煮出した液や泥自体の効能にも眼を向ける必要があると、みんなでよく話します。抗菌性や防虫効果などもあると言われているので、さまざまな使い道ができる可能性を秘めているんです」

「泥染めが、大島紬以外でも産業としてやっていけるという道筋は作れたと思います。未来は、あいつらに託します」と山元さんが嬉しそうに瞳を細める。

People

取材に協力してくれた人たち

肥後染色代表

山元 隆広

肥後染色の伝統工芸士である肥後英機氏の娘婿となり、肥後染色にて職人見習いとして働き始める。それまでの大島紬だけでなく、多くのアパレルブランドの染めを担当するなど、泥染めの可能性を広げる。2015年には「Amami Earth Color “Dorozome”」をコンセプトにしたブランド「Teba Brown」を立ち上げている。(写真は左から、山元 隆広さん、前田 真守さん、肥後 純一さん、前田 真英さん)