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Discover

#2

ダイナミックな風景に
地球の生い立ちを見る
(1/2)

  • 中島徹
  • 伊豆大島
  • 地層
  • 富士箱根伊豆国立公園

撮影:木本日菜乃
文:櫻井 卓

地球を感じる噴火の痕跡たち

大島に降り立って真っ先に向かったのが、「地層大切断面」と呼ばれる場所だ。100回を超える大噴火の痕跡が、長さ約630m、高さ約24mという圧倒的スケール感で露出している。
「一番ボトムが2万年前。つまりここは約2万年の地球の歴史が刻まれた場所なんです」
今回案内してくれる粕谷さんはジオガイドとしての顔のほかにダイビングショップも経営。大島の陸も海も詳しい希有な人物だ。
大島は200年に1度ほどの間隔で大噴火を繰り返していて、中規模噴火であればその頻度は約40年周期という説もある。
「ここには植物のサンプルも残っている。それを調べていけば、気候の変動などといったこともわかるわけですよね」
中嶋さんはさきほどから真剣な眼差しで地層を見続けている。
国内でもっとも解明が進んでいる火山のひとつといわれる大島の火山活動は、この地層大切断面から得られたデータによるところが大きい。
「火山噴出物が降り積もってできた地層で、これほど広い面積で露出しているところは世界的にも珍しく、海外からも研究者が訪れます。観光客の方はバームクーヘンみたいって、写真だけ撮っていく人も多いですけどね」
「それはもったいない……。僕が研究しているヒマラヤの場合は部分的なヒントを想像でつなぎ合わせていくしかないですが、ここはこれだけ連続して見ることができる。だいぶ羨ましいですよ」
普段物静かな彼だが、地質とクライミングの話になると、とたんに饒舌になる。

足元に広がるのは真っ黒な砂浜。「砂の浜」と呼ばれるこの場所が黒い理由も、火山が影響している。大規模噴火時に大量に降った火山砂が、沢を伝って海まで辿り着いた結果、この漆黒の砂浜が生まれたのだ。
砂浜は山の上から来る。当たり前と言えば当たり前の、こんなことをわかりやすく目の当たりにしてくれるのも大島の魅力だ。ここはウミガメの産卵地にもなっていて、季節になるとたくさんのウミガメが訪れる場所でもある。
ふと中嶋さんのほうに目をやると、砂を拾い上げてつぶさに観察している。

干潮の時だけ通れる砂浜を伝って、「筆島」のそばまで歩みを進める。
筆島は、その名の通り筆のような形をした島なのだが、実はこれはかつてマグマが通っていた火道を埋めて固まった岩石。周りを波によって浸食され、コアの部分だけが残っている状態だ。もともとは高さ1000mを超える火山で、大島よりも古い歴史を持つという。「5000年後にはなくなっている風景かもしれませんね」と粕谷さんが言う。
中嶋さんは、筆島と同じくらい、いたるところに走る岩脈にも惹かれている様子だ。
「これだけ岩脈が露頭している場所は初めて見ました」
「露頭って言葉が出てくるあたりがさすがですね。地質の専門家ならぜったいここは好きだと思いました」
岩脈とは、岩石を割りながらマグマが通った跡のことで、ここには、いたるところに灰色の帯状の岩脈が走っている。
筋にしか見えなかったものが、知ることによって、地球を感じる目印になる。
さきほどから、感触をたしかめるように、中嶋さんは岩脈に手を当てている。

翌日、元町港から島の南東方面へ30分ほど車を走らせる。高台からは、波浮港という小さな港が見える。
意外なことに、ここもまた、火山とは切っても切り離せない場所。
かつてはなにもないただの台地だったこの場所に、噴火によって火口湖が生まれた。その後の大地震による津波の影響で海と繋がり、それを整備して天然の良港に仕立て上げたのが波浮港の成り立ちだ。近くに良い漁場があったこともあり、風待ち港として多いに栄えた歴史をもつ。粕谷さんが見せてくれた当時の写真には、船で溢れんばかりになっているかつての波浮港の風景があった。噴火という災害にめげず、それどころか利用してしまう。そんな人間のしたたかさを体現している場所でもある。

もうひとつ、粕谷さんがおすすめだという噴火の痕跡へ向かう。
三原山山頂口から溶岩地帯を抜け、フラットな道を1時間ほど行くと、唐突にそれが現れる。真っ赤に口を開いた抉れた大地。
「赤ダレ」というこの場所は、三原山ができる以前に、もともとあった沢地形の近辺で噴火が起こり、その後、さらに沢に沿って侵食が進んだことで、いまのようなダイナミックな景観を生み出したと考えられている。名前にもなっている赤の理由は、溶岩が高温のまま空気に十分触れ、酸化が進んだため。要するに錆の赤だ。
赤と緑のコントラストが美しい場所で、溶岩が流れた場所は、うっすらと筋状になっているのがわかる。それは前日に訪れた、遠く砂の浜まで続いている。

People

取材に協力してくれた人たち

オレンジフィッシュ

粕谷浩之

ダイビングショップ「オレンジフィッシュ」の代表。ジオパーク認定のジオガイドとしての顔も持ち、伊豆大島の貴重な地質的見どころについてもガイディングをおこなっている。伊豆大島の山、海両方の魅力を次世代に繋ぐべく、自然教育も積極的に行っている。

フリークライマー、ザ・ノース・フェイス アスリート 

中嶋 徹

長野県出身。父の影響で幼少期からクライミングをはじめ、外岩において、さまざまな最年少記録を更新。海外への遠征も積極的におこなっており、直近ではフィンランドにある世界でもっとも難しく、最も孤独な課題とわれている「Burden of Dreams 9A(V17)」というボルダーに挑戦中。精力的に世界的なクライミングを行う一方で、地質の研究者としても活躍中でヒマラヤなどでもフィールドワークを行っている。