#13
自然という
神さまからの贈り物 (4/4)
- シマ唄
- 奄美群島国立公園
- 自然と文化
撮影:木本日菜乃
文:櫻井 卓
伝統は昨日
奄美を知るなら唄が良い。
島に到着した日も、奄美のガイドさんが案内してくれたお店で女将さんが唄と踊りで歓迎してくれた。
唄にはじまり、唄で終わるのも素敵かもしれない。そんな想いで最終日に訪れたのは名瀬の中心地にある「ムルfeel BASE」。シマ唄を聞きながら、島の歴史や昔の暮らしを学べる場所だ。
立ち上げたのは新元 一文さん。奄美の人のチャーミングさを凝縮したような、くるくると変わる表情が良い。
この新元さん、とにもかくにもお喋りが上手い。
島の歴史や文化、自然、村のお年寄りから聞いた笑い話、山に住むというケンムンという妖怪の逸話、神さまの話。はては元ちとせの唄い方まで大幅な脱線も含みつつ、島の魅力を余すところなく伝えてくれる。
そしてときおり挟まれる三味線とシマ唄。ほとんどワンマンライブの領域なのだ。

「奄美はお祭りが多いんです。旧暦の行事もやるからもう毎月のようにお祭りがあります」
行事の多さは神さまへの畏敬に直結する。
「とうとがなし」という言葉もある。「尊々加那志」と書く。最大の敬意を表す言葉であり、自分よりもまず、相手を尊び、敬うという意味だ。これは自然という神さまに対しても同様の意識なのだ。
唄をまじえながら、話は心地良く転がっていく。
「人間らしく生きるための知恵や感性を取り戻すためのヒント、それが唄です。唄はあくまでも表現方法。そこで歌われている暮らしや、人々の願い、祈りを共有するという文化こそが素晴らしいのであって、それを伝えるために唄や昔話があるんです」
新元さんのお陰で今回の旅で見たものたちの解像度があがっていく。唄と話に聞き入っていたら、あっという間に1時間半が経っている。
現代の唄者であり語り部だ。こんな授業ならいくらでも聞いていたい。
新元さんは「ムル feel ゼミナール」という各種講座や野外活動などもおこなっていて、島の文化を伝える学校的な側面もある。
新元さんが作詞したという「ムル feel ゼミナール」の校歌を三味線に合わせて唄ってくれる。


“進んで行くこの世の中
無くなった ものも多くて
無くなったものの中に
大切なことがあったかも
考えるな、感じろ。ばあちゃんが言ってた
もうそこには戻れないけど
感じる力は取り戻せる”
「なんでもお金で買えて、便利になったのは間違いないです。でも、それと引き換えに地域文化やコミュニティをなくしてしまうのはもったいないと思うんです。昔に戻れと言っているわけではなく、忘れないことが大切なのではないでしょうか」
「ムルfeel BASE」の壁には、昭和30年頃の島の様子が撮影されたモノクロ写真が飾ってある。かつて奄美大島の暮らしを撮影してまわった民族写真家の芳賀日出男氏によるものだ。氏は当時の奄美大島の人たちを見た時のことを、こう振り返っている。

“経済的には決して豊かではなかった。しかし住民は誰もがみな素晴らしい表情をしていた。人の暮らしにおける心の豊かさが、経済にあるのではないことは明らかだった”
「奄美では“伝統は昨日”なんです。遠い昔の話ではなく、現在進行形。日本でもとても珍しい島なんです。だからまだ、間に合う」
奄美の集落は基本的に、三方が山に囲まれた海に面した場所にある。海も山も集落の共有財産として守り続けてきた歴史がある。現在見直されつつあるコモンズの考え方だ。人間を自然の外に置いていない、とも言える。自然のことは自分ごとなのだ。
今回出会った人たちも、自然を享受しながら、自然への感謝を忘れない人々だった。奄美の生物多様性を支えているのも、こうした多様な奄美の人々なのだ。
自然との共存はもちろん、共同体のありかた、人同士の繋がりなど、奄美から現代社会が学べることは多い。
この島にはネリヤカナヤという言葉がある。はるか彼方の理想郷というくらいの意味合いだが、もしかしたらそれは奄美の人の心の中にあるのかもしれない。
海をみながら新元さんのシマ唄を聴いていると、そんな考えも浮かんで来る。


