#14
厳しい自然が育んだ
豊かさに関する5つの視点 (2/5)
撮影:木本日菜乃
文:櫻井 卓
修験は国籍を超える
この日、吉住さんとともに一緒に歩いてくれたのは、フランスから鶴岡に移住してきたミヨ・サラ・ラッシェルさんだ。
「サラさんは修験のことをきちんと理解してくれています。魂がお山に認められている」と前出の吉住さんも太鼓判を押す。
来てから1週間もしないうちにこの土地が好きになったというサラさん。その決め手は出羽三山だった。
外国の人の眼には、出羽三山の自然が育んできた修験とはどのように写るのだろうか。

「こんな素敵な場所なのに、海外からはほとんど認知されていない。当時(10年前)はローマ字で「TSURUOKA」と検索してもぜんぜんヒットしませんでした。もったいないな、というのが素直な感想でした。古いものもたくさん残っていますし、自然もそう。こうしたものを継承していかなくてはいけないと直感的に思ったんです。
憧れていた日本がここにありました。田んぼ、茅葺き屋根。フランスでもジブリ映画は大人気なんですが、それがいまでも残っている場所です。
好きなのは六十里街道。1200年の歴史が詰まった道なので、興味深い史跡なども多いのですが、なによりその自然に魅了されました。とくに、ブナ林が素晴らしいと感じます。ヨーロッパには原生林はほとんど残っていませんから。その自然の中に、信仰などの痕跡が残っている。そのブレンド感は、ヨーロッパでは見ることができません」

「森林浴というものもありますが、自然からエネルギーをもらえるというのはいまや科学的にも証明されています。だから自然崇拝を中心に置く修験道というものも、ぜんぜん不思議なものには写りませんでした。フランス北部の生まれなので、ケルト文化が少し残っているというのも抵抗がなかった理由かもしれません。逆に、私たちが(フランスで)守れなかったものが、まだここには残っていることに感動しました」
「でも、ここでも信者が減ることによって、宿坊やお祭りなどがどんどん無くなってしまっていることを知って、このままではフランスのように文化ごと失ってしまうのではないか、と危機感を持ちました。私なりになにかできないか、と考えた時に、そのギャップを海外からの旅行者で埋め合わせられないかと思ったんです」
「そこで修験を体験できるツアーを作ることにしたんです。海外の人が修験に触れると、ほぼ必ずと言って良いほど涙を流します。そうじゃなきゃ、ツアー失敗だなと思うくらいですから。特に滝行の後など、修験でいうところの生まれ変わりの旅が終わってから涙する方が多いですね。いろんな感じ方があると思うのですが、国籍によって伝わらないということはないですね」

「日本の伝統文化にまったく興味がない人にも伝わるというのは、修験のすごいところです。吉住さんとも話したことがあるんですが、今の日本人よりも海外の人のほうが、自然や修験に対して感覚が開いている人が多いように感じます。海外の人が日本の自然や文化を見て感動している様子を、日本の方に見てもらうことで、良い相乗効果がきっと生まれるはずです。そのためには、窓口としての自分が修験、ひいては日本文化や自然についてしっかりと理解し、感じることが大切です」


「出羽三山の中でも、仏教の宗派同士、神道と仏教など解釈やストーリーの違いがあります。私が思うのは、それぞれみんなレイヤーが異なるだけであって、すべてが真実で良いのではないのかということ。私たちのような海外から入ってきた人間だからこそ、フラットに話が聞けますし、潤滑油のような役割もできると思っています」
サラさんと話していて、強く感じたのは出羽三山への深い知識と強い愛。廃仏毀釈や神仏習合など、多くの日本人が正しく理解していないことも、しっかりと学び取っていることに驚く。
国籍は関係ない。海外出身の修験者がどんどん生まれる未来があっても良い。
外からの力。日本人が日本の自然や文化を誇りに思うヒントは彼らにあるのかもしれない。
