Goldwin National Parks Adventure

2026年05月

2026年06月

2026年07月

2026年09月

Discover

#13

自然という
神さまからの贈り物 (2/4)

  • マングローブ
  • 奄美群島国立公園
  • 結ノ島キャンプ

撮影:木本日菜乃
文:櫻井 卓

“結”の精神を受け継ぐ島

奄美は人が良い。
そう言ったら奄美の友人は「なにを当たり前のことを」と笑った。
かつての日本にあったであろう風景がここにある。どこに行っても知り合いがいる。「元気にしてたかぁ?」という当たり前のコミュニケーションがある。下の名前で呼び合う、でっかい家族のようなのだ。
観光客にも島の人は優しい。飲み屋に行けば、興に乗ってみんなで一緒に歌い、踊る。前章でも少し触れたが、島の人は連帯感が強い。それは島に根付く結(ゆい)の精神だ。

結の精神とは、シマ(集落)同士の人たちがお互いに助け合って暮らすということ。古くは農作業や屋根の葺き替えなどは集落全体でおこなってきたし、現在でも災害時などには一致団結する。自然環境も皆で守ってきた。

その精神を共有しようというコンセプトで2014年から始まったイベントが島﨑仁志さんが発起人となって始まった「結ノ島キャンプ」だ。

「最初は島の文化を伝えたい、残したいという想いから身内ではじめたんですが、いまでは島外の人もたくさん訪れてくれるようになりました。島の集落に残る人同士の距離感だったり、関係性が島外の人にも心地良いみたいで、リピーターの人が多いんです」

北は北海道、南は沖縄まで、日本全国の人が集まるという。集落という枠を越えた結の精神が、このイベントによって育まれつつあるのだ。

会場では泥染めのワークショップや、八月踊りなど島の文化を体験してもらいつつ、地元の人と島外の人のコミュニケーションを重視している。八月踊りとは旧暦8月に五穀豊穣などを願って各集落で行われる盆踊り。世代を超えて受け継がれるシマの絆を深める行事だ。

主催者の島﨑さんは、奄美大島のほぼ中心に位置する住用町生まれ。その後、東京でアパレル関係の仕事に就き、2014年に奄美大島に帰ってきた。現在は名瀬で「GUNACRIB」というアウトドアショップを経営するほか、奄美文化をテーマにした「devadurga」というブランドも展開している。豊かな髭と優しい瞳をした、どこか森の精といった雰囲気がある。

「都会から戻って来て強く感じたんですけど、やっぱりこの島って人が面白いんですよ。島の人たちと触れあうことが奄美の根本的な文化を知ってもらう一番の方法だと思ったんです。だからイベントにはたくさんの島の人を呼びます。言ってみれば島の人と過ごす時間そのものが、ワークショップみたいな感じですね」

島﨑さんと一緒に結ノ島キャンプが毎年行われている会場を歩く。展望台からは日本第二の面積を誇るマングローブの森が望める。すぐそばには世界遺産センターがあり、しかも会場は国立公園内という贅沢な環境だ。

身内ではじまった結ノ島キャンプは、多くの協賛者も集まり、いまや日本全国から2000人以上の人が訪れるまでに成長した。

「もともと大きくしたいとかは思ってないので、これ以上の規模にはしないと思います。自分たち運営側も心地良く楽しめるのがこのくらいかなと」

規模を拡大していけば、収益も大きくなるはずだが、そこに島﨑さんの興味はない。

「トントンで良いんです。利益を求め始めてしまうと自分たちの手が届かない部分が出てきます。結果セクション毎に分けて運営せざるを得なくなる。それこそ“結”どころではなくなってしまうと思います。いまは企画から運営まで、すべて自分たちの手でできていますから、これくらいで良いんです」

かつて小学生の時に参加した子どもがいまでは運営側にまわっているという。儲けではなく繋いで行くこと。ここはブレない。

「いま住用町で宿泊施設をはじめたところで、そこを奄美のアウトドア基地にしていきたいと思っています。奄美は太平洋と東シナ海にはさまれているので、日本を凝縮したような島なんです。東京から新潟にいくような変化がこの島の中だけでもある。東がダメだったら西に行けば良い。アウトドアフィールドとして最高ですよ」

「昼食は僕の地元の店に行きましょう」
そう言って連れてきてくれたハナハナ茶屋という古民家を改装したカフェ。生活感がまだ残るその店構えが心地良い。食事をしている間にもノックもなくガラッと戸を開け、近所のおじいちゃんやおばあちゃんがやってくる。花が咲く、たわいもない世間話。
隣の観光客と年配の男性の間で「島の人かい?」「いいえ、違います」というやりとりがすでに何巡かしている。
島の日常はかつての日本の日常だ。その昔、日本中に結の精神はあったのだ。

People

取材に協力してくれた人たち

devadurga代表

島﨑 仁志

住用町生まれ。原宿のストリートブランドショップにて7年間働いたのち、泥染めをテーマとしたアウトドアブランド「devadurga」を東京で立ち上げる。2014年、奄美大島に帰郷。奄美市名瀬に直営店「GUNACRIB」をオープン。結ノ島CAMP実行委員長を務め、各地で泥染めのワークショップなどもおこなっている。