#5
水の巡りと火への敬い
受け継がれる共生の物語
(2/4)
- 上信越高原国立公園
- 自然と暮らし
- 自然の循環
撮影:木本日菜乃
文:櫻井 卓
水の流れは未来へ向けて
お米、温泉など古くからある水の巡りに加えて、水にまつわる新しい動きも出てきている。
2022年12月にオープンした「野沢温泉蒸留所」もそのひとつだ。野沢温泉村の水に魅せられた移住者が中心となって始まったこの蒸留所。扉を開くと、ガラスの向こうに巨大な蒸留器。見せ方がうまい。
そもそもの始まりは、蒸留責任者をつとめるヨネダ・イサムさんが、旅行で野沢温泉村を訪れたことだという。

「森を歩いている時に、故郷のスコットランドを思い出すような、とても良い香りがしたんです。そこでいろいろな植物、杉、クロモジ、カキドオシなどを教えてもらって、ここなら絶対に良いジンが作れると思ったんです」
「カキドオシは道端に生えているような植物ですから」と、ヨネダさんが言うように、材料は周りにいくらでもある。ジン作りは蒸留後にアルコール度数を調整するために、水を加える。だから水もとても重要な要素だ。
「野沢温泉村の空気感をまるごとジンにしたいんです」
水や植物。野沢温泉村の自然を持って帰ることができると考えると、こんな良いお土産、そうそう思いつかない。

そして水の巡りは、エネルギーへと姿を変える。
2022年4月に野沢温泉村で小水力発電所が運転を開始したのだ。
「スキーも温泉も、そして農産物も。結局は自然からの恩恵です。だから、それを保全していくためにクリーンエネルギーを取り入れるのはこの村としては自然な流れだと思います」
現在、小水力発電所を管理している「野沢温泉村役場」の金井淳記さんが案内してくれる。この小水力発電所は、湯沢川の支流である、まくね川に設置されていて、発電出力は最大で100kW。約200世帯分に相当する電力だ。現在、ここで生み出された電気は全量が売電されているが、その先も見据えている。
「20年後にはFIT(固定価格買取制度)が切れるので、その後は村の電力として活用できるのが理想ですね。施設自体も、それを意識した作りやスペックになっています」
いま、スキー場の設備周りを水力発電で賄おうという動きもあるという。

宿に戻って、地元の人が愛する酒、水尾を飲みながら、河野さんの未来のビジョンを聞く。
「自分のキャンプ場(グリーンフィールド)でやっている自立循環型の仕組みを、野沢温泉村全体で実践できないかと模索中です。その軸となるのがやはり豊かな水」
例えば手始めに、と河野は続ける。
「10マイルブレックファーストという名前で、宿の朝食の食材すべて16km圏内のものしか使っていません、という風にしていくとか。それは実際にすぐ可能なんです。そうすると運送費もかからないし、水力発電と合わせれば、脱・化石燃料の可能性も見えてくる」
そういう河野さんのビジョンを支えているのも、水の巡りだ。エネルギーにもなるし、美味い野菜や米も育つ。スキーや温泉というエンターテインメントも、元を辿れば水に行き着く。

「日本の自治体がどんどん自立循環型になっていったら面白いなとも思います。大きな経済システムの歯車になるのではなく、小さいけれど個性を持った地域が増えたら、各地域どうしの繋がりって、じつはもっと強固なものになるのではないかなと思います。その昔、山で採れたものを海に運んでいって、魚と交換してもらっていたような、そういう繋がり方ですね」
野沢温泉村の個性の源はとうぜん水だ。そして、それは河野さんが構想する自立循環型の村のための鍵でもあるのだ。
「自然の恵みをしっかりと受け止めることができれば、自給することは十分に可能だと思っています。それこそここは、野沢温泉村になる前の旧村名は豊郷村ですし、縄文時代から人が住んでいた痕跡も残っている土地ですから」
今回見てまわった野沢温泉の動きのすごいところは、トラブル解決がメインの動機になっていないところだ。通常新しい動きが生まれるのはトラブルが起き、それに対処するパターンが多いが、野沢温泉村では自然との共生が脈々と受け継がれ、維持し、そして進化している。

