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#3

水の巡りと火への敬い
受け継がれる共生の物語
(2/4)

  • 上信越高原国立公園
  • 浅間山
  • 風穴

撮影:木本日菜乃
文:櫻井 卓

火の恵みを享受するもうひとつの場所へ

上信越高原国立公園は広大だ。
群馬、長野、新潟の3県にまたがり、国立公園としては、全国で第4位の面積を有する。
河野と別れたあと、環境省・利用企画官の折原直廣さんと合流し、水と並んで日本の自然の肝である火山を見にいくことにする。
嬬恋村。浅間山の山麓に位置するこの村は高品質なキャベツの産地としても有名だ。そのキャベツのクオリティを押し上げている一端を担っているのが、浅間山の噴火に由来する独特な土壌だ。黒ボク土と呼ばれる火山灰と腐食物質で構成された土が、美味いキャベツの秘訣だ。古くは地元の人からは、でくの棒から取って「のぼう土」などと呼ばれていたが、土壌学と肥料の発展によって、日本でも高原野菜栽培にもっとも適した場所のひとつになっている。

そんな古くからの浅間山とキャベツのストーリーに、昨年新たなストーリーが加わった。「(一社)嬬恋村観光協会」の山田美穂さんが企画した風穴キャベツだ。
嬬恋村でキャベツがとれるのは7月から10月末。冬でも美味しいキャベツが食べられないものかと考えたとき、保管場所として浮上したのが浅間山の麓「鬼押出し園」にある風穴たち。風穴とは、おもに火山地帯の斜面で、地中の空洞から冷温が吹き出す場所。火山地形と、そこを流れる地下水が合わさった結果生まれた天然の冷蔵庫だ。
「かつてここでは、お酒などを保管したという話も残っていて、それならキャベツも、と思ったのがきっかけです」
厳冬期には、やはり凍ってしまうキャベツも出てくるなど、課題も多いが、従来より甘味が増すという意見もある。日々改善策を模索しているところだと山田さんは言う。
「国立公園の利用促進として、観光だけではない、風穴キャベツのような暮らしに根付いた取り組みがもっと生まれて欲しいと思っています」
同行してくれた環境省の折原さんは、さきほどから風穴のさまざまな使い道について、山田さんに熱く語っている。
ほかにも、多孔質である浅間山の溶岩石を利用したアロマオイルセットなど、自然からの恵みを享受するための新しい動きも次々と生まれているようだ。

取り出した風穴キャベツを大事に抱え、キャベツ農家さんのお宅にお邪魔する。
出迎えてくれたのは「妻の手しごと」の松本もとみさんと滝沢満里さん。さっそくキャベツをたっぷりと使った郷土料理「とっちゃなげ」を作ってもらう。
「いまはスプーンを使いますけどね。昔はほら、こんな風に」
練った小麦粉を片手で摘まんで鍋に放り込んで行く。ああ、なるほど。取っては投げ、だから「とっちゃなげ」ということか。
それにしても、お二人ともお肌がツヤツヤなのだ。まるでキャベツのような瑞々しさ。「キャベツって美肌効果もあるんですか?」と思わず間の抜けた質問をしてしまったが、キャベツにはビタミンUがたっぷり。そういえば、あの有名な胃腸薬の名前もキャベツ由来だ。最近、腸内環境を整える“腸活”なんて言葉もあるけれど、嬬恋村では、古くから腸活文化があったというわけだ。

People

取材に協力してくれた人たち

環境省

折原 直廣

信越自然環境事務所・国立公園利用企画官。カナディアンロッキーで約3年間カメラマンやガイドとして働く。その時に頻繁に訪れていたバンフ・ジャスパー国立公園での経験や帰国後のリゾート運営会社での経験などを日本の国立公園にも活かせないかと思い、2019年に環境省に入省。上信越高原国立公園、妙高戸隠連山国立公園を主とする国立公園利用企画官を務めている。観光だけでなく、SDGsを学ぶ教育旅行など、さまざまな形での国立公園の利用方法を模索する一方で、個人として日本観光に関するポッドキャストも配信中。

(一社)嬬恋村観光協会

山田 美穂

鬼押出し園での風穴キャベツの発起人。ほかにも、カラマツ、モミ、トウヒなど嬬恋産の間伐材を利用して、アロマオイルを制作。浅間山の溶岩石を利用したアロマストーンとセットで商品化するなど嬬恋のあらたな特産品作りにも積極的。

妻の手しごと

松本 もとみ(右) 滝沢満里(左)

嬬恋村に暮らす農家の主婦たちによるブランド「妻の手しごと」のメンバー。嬬恋キャベツ酢や、浅間山モチーフのお菓子「yamagashi」など嬬恋村の魅力を発信するためさまざまな商品を開発・販売している。