#6
北方という厳しい環境における
未来へ向けた自然と人との対話
(2/3)
- レブンアツモリソウ
- 利尻礼文サロベツ国立公園
- 礼文島
撮影:木本日菜乃
文:櫻井 卓
盗掘という過去を乗り越え
高山植物を守るためにいまできること


花の礼文には悲しい過去がある。
高山植物を狙った盗掘との戦い。とくにレブンアツモリソウは礼文島にしか生育しないという稀少さも手伝って、かつては商売目当ての大規模な盗掘がおこなわれた。監視所を建てて夜通し見張った時代もあったという。
「レブンアツモリソウ群生地も10年前には有刺鉄線が張り巡らされていて、観光地とは思えない景観でした」と、礼文町高山植物培養センターの村山誠治さんが振り返る。
「見られないから見たいという心理があると思うので、ある程度見せられる場所が必要だと思っています。高山植物園では、できるだけ自然に近い形で育てた50種1万株の高山植物を楽しめますし、それらを観察できるトレッキングコースも島内に7つ設定しています」
いまでは、この10年間でおこったレブンアツモリソウの盗掘被害は1件2株のみ。
「やはり、見てもらうことで関心を持ってもらって、保護の意識を高めるほうが今となっては有刺鉄線よりも効果的なのではないかなと思いますね」
いまは約6000のレブンアツモリソウの花が確認できている。ただし、生育地は礼文島に限られるため、万が一激減してしまったら取り返しがつかない。


それに備えて、村山さんが中心になって進めているのがレブンアツモリソウの培養だ。
「もともとは減っていた時期に、培養した株を自然界に戻そうと思って始まったプロジェクトなんですが、現状は保護の努力で個体数が維持できているので、万が一激減したときに備えて培養し続けています」
レブンアツモリソウを含め、ラン科の植物が自然状態で発芽するには共生菌が必要。実は、無菌培養の方法も確立されているのだが、「できるだけ自然な状態で」ということで、より困難な共生菌を使った培養方法を取っているという。
「レブンアツモリソウは、とにかく時間がかかる植物です。発芽から開花までは約6年かかります。いま僕がやっていることの成果も6年後。気長にやるしかありません」
村山さんがシャーレの中で培養中のレブンアツモリソウの種を見ながら言う。

礼文島を巡ると、高山植物の名所だけでなく、ほんとうにいたるところに花の姿があることに気付く。
花の名所、桃岩展望台コースまで足を伸ばす。ここは国の天然記念物に指定されているエリアにも関わらず、7年前から試験的にササの刈り払いをおこなうなど、積極的に人の手を入れている希有な場所だ。
「昔だったら手つかずの自然なんて考え方もありましたが、いまはもう人間が積極的に介入しないと維持できないところまで来ていると思います」と言っていた村山さんの言葉を思い出す。
保護にゴールはない。終わらせてはいけない。また同じ道を歩まないとも限らないのだから。村山さんの話を聞き、少しだけでも現状を知ることで、前よりも確実に足元に注意を向けていることに気付く。


