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Discover

#11

種を蒔く存在としての移住者と
共に育てるローカルの関係
(2/3)

  • お遍路
  • ロングトレイル
  • 瀬戸内海国立公園

撮影:木本日菜乃
文:櫻井 卓

小豆島にはお遍路がある。四国遍路の一部だとかそういう話ではない。全88ヵ所、通しで歩くと約140km。1週間ほどの行程の立派なロングトレイルだとも言える。そんな小豆島遍路に魅せられてはるばる移住してきた人がいる。海を望む斜面に建つ素敵なお家「SEN GUEST HOUSE」を訪ねると、オーナーであるマシュー・アイアナロンさんと範子さん夫妻がとてもフレンドリーに出迎えてくれた。
2人も大好きだという小豆島遍路の2番札所である碁石山を一緒に訪れる。

「なんの予備知識もなく、最初に訪れたのがこの碁石山だったんです。こんな場所が小豆島にあるのか、と度肝を抜かれました」
範子さんが振り返る。当時は松山で、外国人に向けた四国遍路の案内を兼ねたゲストハウスを経営していたが、これが移住のきっかけとなった。
たしかに。眼下には小豆島の自然と街の両方が見え、海も見渡せる。小さな島とは思えない広がりのある風景だ。一方で、洞窟を利用して作られた本堂へ足を踏み入れると、神秘的な空間が迎えてくれる。ひとつの札所だけでこれなのだから、全88ヵ所巡ればとても深い歩き旅ができるのは容易に想像できる。

だが当時は小豆島遍路の情報が極端に少なかった。特に海外の人に対しては皆無といっていい状況だった。
「これはもったいない、と思ったんです。小豆島を訪れてから松山に来たというゲストたちの話を聞いても、あまり印象に残っていない感じだったんですが、巡り方を知らなかっただけなんです。それで自分たちで小豆島遍路の地図を作ることにしました」
2人が作ったという地図を見せてもらう。しっかり英語も併記されているのはもちろん、その情報の入れ込み方も海外のトレイルマップのそれに近い。
ルートが書き込まれた縦断図を含んだ詳細な地図だけでなく、歴史、気温、1週間のモデルプランやフェリーの時間も記載されている。さらにお参りの手順をまとめた別冊つきだ。
外から来た人間がその地に眠る魅力を再発見するというのは、しばしば起こることだが、それを形あるものにしていくには、地元の人の協力が不可欠だ。

「私たちはただの言い出しっぺですよ。遍路地図作成の大半は地図作成のプロで四国遍路の英語版ガイドブックの著者でもある松下直行さんの力です。私たちは地元情報の提供や調査、翻訳を担当しました。そして霊場や遍路道の細かいチェックは、熟知されている碁石山のご住職たちにお願いしました。さらにご住職経由で霊場会の会長に繋いでいただき、小豆島の霊場会が発行を認めているということで地図にも「編集協力:小豆島霊場会」と入れさせていただいていますし、小豆島観光協会にもご協力いただきました」
移住者とローカルが手を携えて出来上がった地図は、国内外のツーリストだけでなく、地元の人も喜んでくれたという。このままでは埋もれていってしまう可能性を危惧していたのだろう。
「地図を作っていくうちに、お遍路以外のハイキングコースの存在なども知り、地図に記載しました。遍路道以外も楽しめる地図にしたくて。今後も色々発掘して地図に載せられるコースを増やしていきたいと思っています」

マシューさんはアメリカのテキサス出身。そもそも彼の目には、お遍路というものはどう映っているのか。
「アメリカのロングトレイルと違うのは、街中を歩くことも多いことです。でもだからこそ住んでいる人とコミュニケーションがあるし、そこにある文化というものに触れることができる。僕は大自然も大好きですが、そういう文化的な面に触れながら歩けるのが巡礼の道の良いところだと思っています。その土地や住む人へのリスペクトを感じながら歩けるところも僕は好きです」
マシューさんはカミーノ・デ・サンチアゴや四国遍路、熊野古道などを歩いてきた経験を持つ。
「小豆島遍路はけっこうアップダウンがあるから体力的には四国遍路よりキツいと思います。ただ、四国遍路と違って、毎日ハイライトがあるので飽きない。良い意味でコンパクトなんです」
アウトドアアクティビティを通じての利活用は、国立公園という意識のためにも有効だ。そこに日本古来からの文化が加われば、さらにその経験は深いものになる。お遍路はロングトレイルという動の部分と、日本の文化を学べる静の部分が両立している。

「日本の文化が詰まった素晴らしいロングトレイルなのに、あまり知られていないというのは、もったいない気もしています。ただ、オーバーツーリズムになってしまうとせっかくの静けさがなくなってしまう。そのバランスが難しいところではありますよね」
なにかが変わるときというのは、こういう外からの素朴な意見がきっかけになることが多い。国立公園のルーツであるアメリカからやって来たマシューさんが認めた小豆島遍路の底力を、もう一度見直してみる必要がある。日本の国立公園には、まだまだ目を向けるべき宝が眠っているのだ。

People

取材に協力してくれた人たち

SEN GUEST HOUSE

マシュー・アイアナロン(左) 範子(右

松山から小豆島に移住し、現在はSEN GUEST HOUSEを営む。小島遍路のマップ「Shodoshima 88 Temple Pilgrimage」も発行。マシューさんは島内のクラフトビール屋「まめまめびーる」さんでオリジナルのビールも製造している。